ドクター

痛みは我慢しなくて良いのです

 

この2つのグラフ。共通点があると思いませんか?

「医療用麻薬の消費量」と「無痛分娩の普及率」

どちらも、日本人が“痛み”をどのようにとらえ、“痛み”に対してどんな選択をしているかを明確に表しています。

忍耐を美徳とする日本の社会では、鎮痛薬の使用量や、分娩時の鎮痛を積極的に希望する人は、諸外国と比べると極端に少ないことがわかります。

米国では「オピオイドクライシス」といって、オピオイド(医療用麻薬)の乱用による精神障害や死者の数が何十万人にも達していることが、近年問題視されています。特に慢性疼痛に対して医療用麻薬を使用する際は、適正に使用しなければいけません。

しかし日本在宅ホスピス協会発行のニュースレターの中に見つけた、川越厚先生のお話:

 

「私の危惧の一つは、『医療用麻薬使用にブレーキが掛けられているのではないか』ということ。日本のように麻薬の管理が非常に厳しい国と、医療目的以外で麻薬を乱用する米国とでは話が全く違う」

 

というコメントに、私も共感です。

「患者・家族が麻薬を受け入れないこと」「医師が麻薬を使用することを躊躇してしまうこと」が多い日本において、“適切に”用いれば、QOLの向上に大きく貢献してくれる医療用麻薬を、必要な症例に対しては躊躇せずに用いていくことができる環境を整えていかなければなりません。

 

オーストラリアでカウンセラーとして緩和ケアに携わっている仲間は、

「使いすぎず、そうかといって我慢しすぎず、必要に応じて適切に使う。オーストラリアを探して、安心しました。」と話していました。確かに、“必要時に必要量”という観点からは、オーストラリアは比較的理想に近い形と言えるかもしれません。

 

患者の不安・誤解にアプローチすること以外にも、課題はあるようで「患者が医療用麻薬の使用を躊躇する要因」の中に、「痛みを訴えない患者は“良い患者”であり、良い患者でいたい」「医療従事者は痛みの話をすることを好まない」があげられています。(『がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版』)。患者の痛みに正面から向き合い、辛さを表出しやすいコミュニケーションの場を設定することが求められているのですね。自分自身の日々の診療を振り返りながら、スタッフ教育にも注力していきたいとおもいます。